X-HOLDERについて|散弾銃のシェルホルダーに迷ったら

今回はカカシラボの主力製品のひとつ、X-HOLDERについて書こうと思います。

X-HOLDERとはなんぞや?という方もいらっしゃるかと思いますので簡単に説明致しますと、シェルホルダーとか弾差しと呼ばれる散弾銃の弾を入れるケースのようなものです。

KKSLABーカカシラボーはじめました

こんなやつ。

X-HOLDERを作る以前はFAB DEFENSEのシェルホルダーを好んで使っていました。

シェルホルダーは僕にとって悩ましい存在で、自分の理想に合うモノがなかなか見つかりません。大きさ、材質、抜き差しのしやすさ。布製や革製、樹脂製と色々試してみましたが、どれもしっくりくるものが無い……。

無いなら作ってしまえばいいじゃない、という軽いノリで製作を始めたのですが、完成して今のバージョンに至るまでなかなかの苦労がありました。

いつかこの製作秘話を語りたいという思いがあったので、ちょうどブログネタもなくなってきたことだし、今まで温めてきたこの思いを書いていきます。

Contents

きっかけはハンター仲間のグループ

作るきっかけになったのは単独忍び猟を愛するハンター仲間とのやりとりから。

その頃の僕はやっと3DCADの基本的な操作に慣れてきた頃で、何を作っても楽しかった時期でした。
シェルホルダーは3Dプリンターを手に入れたら絶対作ってやろうと思っていたので、こんな感じでみんなに提案してみました。

「最強の弾差しを作ろうぜ」

ぼくがかんがえたさいきょうのそうびが発端です。30代男児。

完成した暁にはみんなにプレゼント。という条件で意見を募集。

みんなから上がった意見は、

  • MOLLEシステム対応
  • 簡単に落下しない
  • 多すぎない収納弾数
  • 下から押し上げることができる構造

等でした。ちょっとざっくり過ぎるので説明します。

みんなから上がった要望

・MOLLEシステム対応

タクティカル路線だけでなく、今やハンティングギアにも当たり前になってたMOLLEシステムへの対応は外せないです。取り付け方法は自由度が高い方が良い。

・簡単に落下しない

チープというか、雑な作りのシェルホルダーだと弾を落としそうになって何度か冷や汗をかいたことがあります。特に布製のゴムに通すだけのシェルホルダーは最悪でした。落としやすいうえに、抜いた弾を戻しにくいのでストレスMAX。

逆にキツすぎてなかなか抜けないシェルホルダーもあったので、程よい力加減の抵抗がベスト。

・多すぎない収納弾数

市販のシェルホルダーって、収納弾数が多いものばかりな印象。鴨とか撃つには良いのかもしれませんが、単独忍び猟だと2発もあれば充分という状況も多いので、収納数より省スペース化を優先。

・下から押し上げることができる構造

水抜き用の小さい穴があいているシェルホルダーはあるんですが、指が入るほどの大きさのものはなかなかないです。弾を抜くとき上から掴んで抜くよりも、下から押し上げるほうが抜き易いのでは?というアイデアでした。

以上の要望をとりあえず反映して、最初に出来上がったプロトタイプがこちら。

今見ると全然洗練されてないデザイン。さすがプロトタイプ。

しかし、この野暮ったいプロトタイプがあったからこそ今のX-HOLDERが誕生したのです。

このプロトタイプの特徴は

・シェルを押さえる爪部に結束バンドが通せるので弾を抜く抵抗力が調整可能。

・背面の凹凸により強力なグリップ力を発揮。コーデュラ素材でも食いついてズレない。

上記プロトタイプと多少形状は違うのですが、弾にかかるテンションは同等です。ホルダーごとブンブン振っても落ちませんが、弾を掴んで抜くときはスっと抜ける。

矛盾した性能に作った本人もびっくり。

このプロトタイプの製作段階では販売を考えていなかったのですが、欲しい!と言って下さる方が何名かいたことと、カカシ的を販売するのにネットショップを作ろうかと考えていたところだったので、商品化を視野に入れました。

とはいえまずは猟場で使って貰ってみないとわかんないよね、ってことで有害鳥獣駆除や管理捕獲に従事されている方数名にお願いして、実際に現場で運用してモニターになっていただきました。

テストの結果は概ね良好な感想の中、弾を押さえる爪の部分が破損したという報告が一件ありました。

僕自身も試作の段階で不安を感じた部位で、実際何度も材質の変更や積層方向の試行錯誤をして、実用に耐えるであろう強度が出た、と思っていたので心底ガッカリしました。

また、量産となるとネックになる点がもう一点。背面の凹凸部は別パーツになっていて、接着剤を使用していました。少し特殊な接着剤なので塗るのにも手間がかかるし、接着するだけでは強度的な不安もあり、単体で成形できるように全体的なデザインの見直しを行いました。

X-HOLDERがX形状になった理由

デザイン変更といっても、プロトタイプの使い勝手を引き継いだ全く違う構造を考える必要があります。

色々と試していく段階で、押さえの爪の方向を横にしたものを作成したときに閃きました。

僕が主に使用しているFDM方式の3Dプリンターは製作に少しコツが必要です。

その特性上、力が加わるとどうしても弱くなる方向ができたり、サポートと呼ばれる支柱がないとうまく造形できなかったりします。

一筆書き(実際には異なるのですが)で平面を重ねていって立体を構成していくイメージを持って貰えればわかりやすいかと思います。

強度的に弱い部分は厚みを持たせるとか、部品を大きくするなどして対処。

サポートが必要な角度は3Dプリンターの性能次第で、サポートの数を多くすると除去に時間がかかったり、造形物に余計な傷を増やす原因になったりと、必要だけど少し厄介な存在だったりします。

割れにくい大きさ・厚みでサポートを極力必要としない形状……。

たくさんの試作と検証の結果、たどり着いたのが「X」形状の切り抜きでした。

いえ、多分シンプルに「I」でもいけたと思います。

でも、エックスってなんかかっこいいじゃん。

という感じノリでエックスホルダーが誕生しました。

X-HOLDERの特徴

それでは現行X-HOLDERで特徴を説明したいと思います。

①弾を抜く抵抗を調整できる

ホルダー部の内側は絶妙な角度で山なりになっていて頂点部分が弾を押さえるようになっています。

X-HOLDERはそのままでも簡単に弾が抜けない程の保持力がありますが、もう少しきつめにしたいとか、経年劣化で摩耗してきたとき等、結束バンドを使用し外周を締め付けることで使用者の好みの強さに調整することができます。

ちなみにX-HOLDERの弾にかかる抵抗は完全に僕の好みです。このホールド感に至るまで本当に沢山の試作品を作りました。絶妙な力加減を一度体験して欲しいです。

②MOLLEシステム対応

MOLLEシステムに対応させるため、1インチ幅のウェビングに最適化してあり、PALSウェビングの1スパンに大体収まる省スペース設計です。背面の凹凸と結束バンドで編むように使用するので滑りにくく、サスペンダーのストラップにも取り付けることもできます。

プロトタイプの凸凹背面は廃止し、滑らかな背面のまま同等以上のグリップ力を確保しました。

③安価な結束バンドを使用

「誰でもどこでも買えるモノ」ということで安価な結束バンドを使用しています。一本のウェビング幅に収まるように固定する方法を検討していくと、ウェビングとシェルホルダー背面の隙間の遊びを極力無くす必要がありました。マリスクリップだとちょうど良さそうな長さのものもなく、躊躇せず切れる結束バンドを使用する前提で作りました。

④生分解性プラスチック使用

PLAという、石油由来の樹脂に比べて土に帰りやすい、植物由来の乳酸から生成されているプラスチック素材を使用しています。バージョン2までPETGという素材を使っていましたが、仕上がりの問題から高強度PLAに変更しました。粘り強いので一撃で割れることも起こりにくいです。でも熱に弱いのが欠点。

⑤上からも下からも抜きやすい

絶妙な保持力のおかげで弾の上部が多めに露出しているので、上から掴みやすくなっています。また、シェルホルダー下部の穴から指先を入れて弾を押し上げることもできます。少し慣れれば手探りだけで抜き差しすることも可能です。

以上がX-HOLDERの特徴でした。

ちなみにお友達の弁理士さんから「特許取れるレベル」と言われて舞い上がったんですが、その費用を聞いてとてもじゃないけどペイできそうになかったので諦めました。

無念。

射出成形も考えたのですが金型に掛かる金額も大きいし、形状的にも難しい……。

3Dプリンターでしか作れない、というのが最大の特徴かもしれません。

そんな感じで誕生したX-HOLDERはこちらから購入できます。

created by Rinker
カカシラボ KKSLAB

KKSLABーカカシラボー

今後のバリエーション

現在X-HOLDERは通常版と、90度角度の違うX-HOLDER改との2種類です。12番用・20番用の2種類の口径、ブラックとオレンジの2色のバリエーションがあります。

通常版はベストやバッグにそのままつける用、改はサスペンダーや銃につける用という感じです。

そしてこれから商品化を予定しているバリエーションもご紹介。ほぼ完成しているものもあれば、構想中のモノもあります。

なかなか商品化が進みませんが、慌てず焦らず作っていきたいと思ってます。

X-MAGAZINE(仮称)

X-HOLDERと同等の保持力を有した、マガジン形状のホルダーです。シェルキャリーとでも言うのかな?予備の弾入れとして想定しています。6発差し。

チェストリグにした理由に、これを作って使ってみたかったのもあります。マグプル使用のバージョンも採用したい。

なお、X要素は皆無。

X-HOLDER WIDE

X-HOLDERに指一本分の隙間を空けたワイドバージョンで、二発同時に抜きやすくなっています。上下二連向け。

あとはX-HOLDERのライフルカートリッジ版ですかね。各口径の製作を予定してますが、とりあえずは自分のライフル口径.243から作ってみます。

最後に

ぼくのシェルホルダーに対する、いやX-HOLDERの熱意が伝わったでしょうか?

数多のゴミを作り上げたばかりに引くに引けず、半ばヤケクソな気分で作ってきましたが、現行のX-HOLDERは納得のいく仕上がりになっています。

おかげ様でX-HOLDERの累計販売個数も150個を越えました。

X-HOLDERを一つ作るのに約3時間かかるのですが、在庫を置くスペースも限られるのでほぼ受注生産という態勢です。

機材の不調で猟期に間に合わない!なんてことも起こり得るので、ご検討中の方は余裕をもってご注文いただけると幸いです。

また、こんなの取り入れたら面白そう!なんてアイデアありましたらTwitterアカウントのほうへDM下さい!