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スラッグ弾のハンドロード、それは沼。
スラッグ弾のハンドロードは底無し沼のように深い。火薬の量、使用するワッズ、弾頭にかける圧力やクリンプの方法。弾を構成する要素が少しでも変われば、弾着にも大きく影響する。
弾のレシピは、弾をハンドロードする「弾職人」の数だけ存在するが、その詳細を語りたがる者はそういない。貴重な時間と金銭を費やし、強烈なリコイルに脳を震わせながら弾を完成に近づけていく。果てのない探求に、自分がどこで納得するか。どこまで拘るか。的紙に開く、わずか数センチ・数ミリの穴の間隔を埋めるのに労力を注ぐ。
どれだけマゾなんだというのは置いといて、苦労して作った弾のレシピを、そう易々と教えたくないという気持ちを抱くのも無理もないことでしょう。
僕もSVAROGのハンドロードのレシピをブログに書いていますが、このモールドの存在は教えていただいたものだから、皆で情報をシェアしようという考えからです。
もし自分で見つけていたら、こっそり作ってブログのネタにもしていなかったかもしれない……。
そんな弾職人にとって大事なレシピを、僕のブログで紹介してほしいという奇特な男が現れたのです。僕の友人、I川氏です。
友人I川氏という人物
I川氏は世にも珍しいターハント銃身のM870を所持する変態紳士で、彼の自慢のM870と極秘レシピの精度は凄まじく、ライフル並みのグルーピングを実現している。
Twitterでたまに突発的に告知している「動的コソ錬会」の主催者は彼で、今年度のランニングターゲット日本選手権で2位という腕前を持つ人物でもあります。
ちなみに「狩猟生活VOL.5」で、僕が載っている記事の前の人物がI川氏だったりします。
何故レシピを公開する気になったのか尋ねると、彼らしい答えが返ってきました。
「理由……?そりゃ泥沼に嵌まってもがく弾職人を一人でも救うためさ。」
やだ、カッコイイ……。
彼の男気に僕の弱小ブログで応えられるか不安しかないですが、【弾頭鋳造編】、【リロード編】、【実射編】 の3回にわけて掲載したいと思います。
なお、現時点で僕は12GAのハンドロードはやっていないので彼のレシピを試すことはできません。彼の詳細なレポートを元にして、ほぼ原文ママに作成しています。僕自身で検証は行っていないので、質問等に対してのレスポンスは遅くなることをご理解ください。
※ハンドロードは奥が深く楽しいものですが、危険も伴います。必ず予備知識を得た上で自己責任で行って下さい。
弾頭の鋳造
用意するもの
- 鉛溶解ポット(LEE PRO4-20を使っています)
- 鋳型(SVAROG PARADOX 12GA SPECIAL PIN)
- 鉛(純度が高い鉛を推奨だが、釣りの錘に使われるような硬鉛も可)
- 耐熱革手袋
- プラスチックハンマー
- 真鍮ブラシ
- スプーン
- 不燃性の素材で出た長袖の上着
- 防護メガネ
写真に写ってはいませんが、防護メガネと不燃性の長袖は必要です。防護を怠るとこうなります。
やけどの跡です。一生消えません。必ず防護してください。
鋳型のプレヒーティング
経費節約のため、拾ってきた釣りの錘など、成分不明な鉛くずを溶かします。釣りの鉛は硬鉛と呼ばれ純鉛よりかなり硬度が高いのですが、鉛の硬度と集弾性能の関係、つまりは純鉛と硬鉛の性能差は実写編で説明します。
鉛を30分ほど加熱し、十分に溶かしたら、溶かした鉛の中に鋳型の金属の部分のみを浸し、予加熱します。1分足らずで鋳型の予加熱は完了します。鋳型を2分以上鉛ポットに入れておくと、ハンドル木部が燃え出しますので気をつけてください。
鋳型の鉛落とし
ポットから鋳型を引き上げると、このように鉛がべっとり鋳型に付着していますが、十分に予加熱が済んでいれば、プラスチックハンマーでヒンジを叩けばきれいに鉛は落ちます。(落なければ再度鉛に浸して加熱してください)それでも落ちきれなかった鉛は真鍮ブラシで軽くこすればきれいに落ちます。必ずプラスチックハンマーと真鍮ブラシを使用してください。普通のハンマーやブラシでは鋳型がすぐに摩耗・変形して使い物にならなくなります。
鉛の流し込み
鋳型の内側に鉛やカスがないことを確認したら、溶けた鉛を鋳型に流し込みます。
鋳型から溢れ落ない程度、表面張力に頼って多めに注ぎ込みます。多めに注がないと冷え固まる時の縮みに引っ張られて、弾頭先端が凹んでしまいます。
シワが出て、鋳型の注入口の位置が凹み終わったら(冷却時の収縮が終わったら)弾頭を離型します。 鉛の質にもよりますが、鋳型が高温の場合、写真のようになるまで長い時は1分以上要することもあります。
離型
ミミを叩いて余分な鉛を落とす時は、鉛の跳ね上がり等、やけどに注意してください。
鋳型が十分に加熱されていれば、弾頭は写真のように鉛が鋳型の空気抜きに流れ込んでできるバリ(タイヤで言うスピュー)が出来ます。良質な弾頭の特徴です。
インナーピン(弾頭の内側の鋳型)を抜くのには、注意が必要です。
当たり前ですが耐熱革手等で手を保護した状態で、まずは軽く(強く握ると弾頭の熱でやけどしたり、弾頭が変形する可能性があります。)弾頭をつまんで引っ張ってみます。新品の鋳型ならすんなり抜けることが多いですが、使い込んだ鋳型や、鉛の質によっては全く抜けないことも多々あります。
ただつまんで引っ張っただけでは抜けない場合、水につけて急冷させます。
急冷したら強く弾頭を握って、力いっぱい引き抜いてみます。大半はこれで抜けるのですが、
急冷させても抜けないときは、鋳型を使って強制的に抜きます。
写真のように弾頭と鋳型の溝をあわせ、軽く溝が噛み合う程度に鋳型を閉じ、引き抜きます。
この時、力を入れて勢いよく引き抜いた拍子に、高温の鋳型に接触してやけどする可能性があるので、引き抜く方向に注意が必要です。
SVAROGの説明書には、最初からこの鋳型の溝に引っ掛けて引き抜くようにと書かれていますが、型から取り出したばかりの弾頭は柔らかく、挟む段階で変形してしまうことが多いです。冷却してから挟んだ方が成功率は高いです。
検品バリ取り
あとはバリをカッター等で切り取って弾頭の完成です。鋳型の温度が十分でないと写真のように流し込みの跡が弾頭に残ってしまします。鋳型が十分予加熱されていれば、表面も均一で、ス(冷却時の収縮によってできる隙間)もなく、削り出したかのような仕上がりになるはずです。
完成。
鋳造という過程を一つ取っても、僕と彼とでもやり方が違います。改めて面白い世界だと思いました。弾職人が10人いれば10人のやり方があるんでしょう。
I川氏のプレヒーティングを真似してみようと、暖めた鉛にモールドを突っ込むことを試してみましたが、僕のポットのサイズが小さく入らなかった……。
悲しい。
ちなみに僕は安定した弾頭ができるまで、手間はかかるけど、ひたすら作っては溶かしを繰り返しています。
次回「リローディング編」へ続きます。